チャイ屋で
とあるチャイ屋で、奇妙で美しい恋人たちをみた。
おんなは、美しい顔をもつが糸のようにやせ細っていてとても直視できない痛ましい姿、
そしてその体では自力であるくことさえもできない。
そんなおんなをだっこしながら、悠々とあるくおとこ。
おとこは、筋肉隆々で真っ白く輝く肌をもつ。
しかし、かれには顔がない。
わたしは、そっと彼らの横に座った。
とても自然に無意識に。
そのとたん、なにやら狂おしいほどの沸き立つ匂いが空間を支配しはじめた。
麝香のような甘美な匂い。
この2人が合わさったときに、完璧な人間像が私の目前に現れ出たよう。
話しかけたい欲望を抑えて、その甘美な香りにひととき包まれた。
あの香りがいつまでも、体にまとわりついて離れない。