Ali uchida

写真家 内田亜里のブログです

メモ

われわれのからだの、原形質の中核には、静物発生以来、三十億になんなんとする歳月を費やして、
綯い続けてきた生命記憶の縄が、あの ”二重の渦巻文様” として、秘められています。

それは、この地球とのつながり、古代海水との交流、さらには、あの母乳の感触、そして遠い故郷の味など、、。

われわれは、こうした浅深色とりどりの生命記憶を、ある日、忽然と回想する。
それは動物たちの世界には決してみることのできないものでしょう。
「いまの此処」に「かつての彼処」をみてとる、それは人間独自の機能と申せましょう。
「近感覚」に対する「遠観得」の機能と呼んでおります。

現代の世の中は、こうした「遠」の世界は、夥しい「近」の騒音に掻き消され、もはやひとつの ”まぼろし”と化した感があります。
いいかえれば、ひとびとは、目先の出来事に、たんにあたまの中で一喜一憂をくりかえすのが精一杯のようにおもわれるのです。

しかし、ここで、いわゆる「真の認識」とか「本質の把握」などといわれているものは、この生命記憶の回想に基づいた「遠観得」の後見なしに
おこなわれるものでないことをふりかえってみなければなりません。

三木成夫 「海・呼吸・古代形象」

DVD [ OITA 2014 ] から ©Ali uchida 2014